いくつかの短いお話 フラメンコ vol.2
フラメンコ vol.2
(2000年筆)
外の世界。
そこには今まで知らなかったものが多くある。
外に出て見ると、見えてなかったことの方が多いのに気づく。
出てみないと、決して分からない。
巡ってきたことには、何か意味があるはずだ。
「音楽」という言葉でひとくくりに出来ないほど、「フラメンコ音楽」は、私にとって異質だった。彼女が私に聴かせてくれた曲の中には理解できるものもあったが、彼女のギターがよっぽど下手なのではないかと思いたくなるほど、ほとんどの曲が無理だった。しかし、このどうしようもない「異質」に苦しんでいるのは私だけで、隣にいる相棒には、何がどう異質で、私が何をそんなに困惑しているのかなんて、さっぱり理解できない様子。
彼女には、クラシック奏者によく見られる繊細で気難しいところは全くなく、大らかというか楽天的というか、まさしくラテン系の性格そのもの。そんな彼女が、数少ないフラメンコギター教室をわざわざ探して習うことになったのも、大きくうなずける。相補関係という点からすれば、確かにベストパートナーかもしれない。
なかなかつかめないその音楽を体で感じてみようと、タブラオ(フラメンコを観せるレストランや酒場)へ連れて行ってもらった。さすが情熱の国と呼ばれるだけあって、初めて観る「生」のフラメンコの迫力は想像以上だった。
バイラオール(男性踊り手)、バイラオーラ(女性踊り手)、カンテ(唄)、ギター、パルマ(手拍子)、果物の木箱のような打楽器(足の間に挟んで、思いっきり叩いて音を出す)、そしてパリージョ(カスタネット)、これらによってフラメンコのショーは構成されるが、私が何よりも驚いたのは「足」という楽器だった。
クラシックにおいて、足はリズムをとるのさえご法度であるのに、フラメンコでは1つの楽 器の役割を果たしているというのだ。大きな音を出すためにフラメンコシューズの裏には仕掛けがあって、金属の板を張り付けるタップシューズと違い、本物の「釘」が何十本と打ち付けてある。その靴を履いて、ダンサーが激しく床を踏み鳴らす。私には踏み鳴らすというよりは、踏み荒らしているように見えた。
そしてパルマが、けたたましく鳴り響く。一体どこにアクセントがあって、誰のパルマがメインなのかも、さっぱり分からないほど、音が多い。表拍子、裏拍子、そしてその間にもパルマは打たれる。あまり連続しているので、拍手のようにさえ聞こえてくるのだ。一人が踊り出すと、全員がパルマを打ち、「オーレー!」と掛け声を上げる。本番中だというのに、後ろで控えるメンバーは話をしたり笑ったりしている。
聞くは一見にしかずだ。私は驚いたというより、呆れ返ってしまった。音階やリズムが違うなんて、そんなレベルの話ではなく、表現方法が、いや何もかもが違う。名前はよく知っていたフラメンコだったが、その中身は全く知らなかった。
私の横にいる相棒は、そんな私の事なんて全く目に入ってない様子で、ステージに向かって元気に「オーレー!」なんて言っている。
「ね!よかったでしょう?また、見に来ましょうね!」彼女の楽天的なフラメンコギター、そして私の気難しい繊細なクラシックバイオリン、私たちの挑戦は続く。
つづく