ばいおりんたちの学校

大阪市中央区谷町のバイオリン教室

いくつかの短いお話 フラメンコ vol.5

 フラメンコ vol.5

 

Photo_21   我々2人のバンド名が決定した。2人の頭文字からとって、「M’s」と名付けた。

  フラメンコギター&バイオリン「M’s」は、度胸をつけるため町へ出る。2人で楽器を持って、大阪の町をウロウロと場所探しを始めた。

 私は、相棒Mのことを「臆病風」と命名する。というのも、この初ライブからして、その風が吹きまくっていたからだ。風はいつもいつも、そして未だに吹く。

 「ストリートでやってみよう!」と言い出した張本人のMなのに、いざとなると強烈に嫌がるのだ。理由は、人がたくさんいるから。あまりの理由に笑ってしまった。人前で弾いて度胸をつけようと出て来たのに、嘘でもいいからもう少しマシな言い訳はないものかと思いながら、必死の説得にやっとOKが出た。

 彼女には「臆病風」以外に、もう1つ名前を授けたい。その名も「すぐ座る肝」。さっきまで「ここはイヤ、あそこもイヤ、今日はやめにしよう」と言ってたのに、彼女は、一旦決めると途端に肝が座る。

 「朝から体調が優れない、指が痛い、寝不足つづきで云々」今覚えてるセリフだけでも、Photo_23  あげたらきりがない。最初の頃は1つ1つ理由を聞いてそれに答えていた私も、最近は全く無視することにしている。それでも臆病風の真っ只中Mは、諦めずに「イヤ」を連呼する。「ハイハイ、そう言わずに始めましょう」いつもこうやってスタートするのだ。私Sにとって、1番の大仕事は、Mと一緒に場所探しをすることだ。それさえ済めば、その日の私のお役目は、ほぼ完了したようなもの。

 さて話は戻り、第1回目のストリートライブ。道頓堀の橋の上が、我々「M’s」の初舞台となった。大阪では通称「ひっかけ橋」と呼ばれるその橋は、いつもナンパしたい人とナンパされたい人でごった返し、歩くのもままならないほどの混雑ぶり。そして、所狭しとストリートミュージシャンが立ち並ぶ。

 やっぱり初ライブは老舗の「ひっかけ橋」だろうと、ここに決めた。橋というだけあって、当然後ろは川。風が吹きっさらしで背中に壁は無く、いざ始めてみると、アンプを通さない生音は全く聞こえない。野外ではこんなに響かないものかと驚いた。ミスが目立たないというメリットもあるが、あまりに聴こえないので、「さくら」で聴きに来てくれた友人も、我々の演奏に全く気付かず、目の前を通り過ぎてウロウロ探す始末。

 そして1番肝心の演奏は、ぎこちなくミスだらけ。「見せる」という空気が無く、ただ2人して一生懸命ひいているだけなので、人の足は止まらずに集まってもすぐいなくなってしまう。千円ばかりの見せ金を用意して挑んだが、この日の投げ銭は2千円、ほとんど「さくら」の友人が入れてくれた物だった。こうして多くの課題を残して、初めてのストリートライPhoto_24ブは何とか終了した。 

 集まったチップを手にしてMが一言。「あー楽しかった!ねえ、これを貯めて、まずはア  ンプを買おっか?!」 もう臆病風は吹いてない。