ばいおりんたちの学校

大阪市中央区谷町のバイオリン教室

いくつかの短いお話 パパの旅行記 vol.5

 パパの旅行記 vol.5

 

(1999年筆)

 

北海道への旅の巻.

Papa

 60歳にして、大型バイク免許を取ったパパ。 何でもやり出したら意地になるパパだから、当然と言ったら当然なんだけど、でもすごい。

ある日、パパは突然、北海道へ旅に出た。 みんなには内緒だったみたいだけど、ママだけは知っていた。 私が数ケ月ぶりに家へ帰ると、パパは何やら熱心に書き物をしてる。 それは旅行記だった。 そして机には写真がいっぱい。 ニッコリ笑ってバイクに乗ったパパが、見たことのないお兄さん達と"ピース"してる。 「実はパパ、北海道へ旅に行ってたんだ。 バイク仲間がいっぱい出来たぞ!」 久し振りにパパと会った私は驚いた。 早速行ったのか、さすがパパ。

パパは元々とってもケチんぼう。 小さいお金にすごくケチ。 でも大きい買い物には無頓着。 パパのこの細かい懐勘定に、ママはいつも、嫌気がさしていた。 そして、ごはんを待ってる家族がいる事をすっかり忘れてるかのような 太っ腹パパもいた。 ママはこれにも同じく、嫌気がさしていた。

旅に出た時のパパはいつも、ケチんぼうの顔になる。 安い宿と おいしいごはんを見つけるのが得意。 いつも見事に見付けてしまう。 この北海道の旅でも、安くて美味しい宿を探しながら、点々としてたらしい。 そう、パパはとっても「食いしんぼう」でもあったのだ。

そんなパパは、旅先でお金が底をついたのか ちょっと中断して、住み込みのアルバイトを始めたそうだ。 そこは缶詰工場。 早起きが大のお得意パパは、毎朝すごく早く起きて、一生懸命働いた。 「つらくなかったの?」って私が聞くと、「いやぁ、毎日ずっと朝から晩まで工場で働いてたから、お金を使うことがなくて、いっぱい貯まったぞ。 それに、ごはんがすごく美味しかったしなぁ。 みんなと友達にもなったぞ。」と なんだかとっても満足そうなパパ。 そっか、缶詰め工場へ働きに行くと、友達がいっぱいできるんだ。 私は、うらやましくなった。 そして、その時の写真をいっぱい見せてもらった。 会社人間だった時のパパより ずっとイイ顔だ。

どうしてパパは、老後のんびり過ごさず、いろいろ大変な事を始めるんだろう。 私は、いつも不思議に思う。 よっぽど会社がイヤだったのかな。 それに比べママは、お気に入りの新築の家に、すっかり根が生えて、「元気で留守が一番!」こればっかり言ってる。

 

つづく

 

 

 

 

(DE5号掲載 1999年11月15日発行)