ばいおりんたちの学校

大阪市中央区谷町のバイオリン教室

いくつかの短いお話 パパの旅行記 vol.3

 

 パパの旅行記 vol.3

 

(1999年筆)  

 

Photo_29 これは私のパパの物語。 私が小さい頃、いつも日曜日の朝は、お散歩好きなパパにつれられ、妹と犬のブクと 山登りに行ってた。

パパは「健康」と名のつくものが大好きで、お散歩・山登りも、その1つだった。 でも私は、お休みの日に早起きするのが嫌だし、パパと山道を歩くのも嫌だった。 パパはとても速足で、ついて行くのが必死だったからだ。 でも山の中で、おいてけぼりになると大変なので、パパのマネをしてがんばって速足にした。 その点ブクは、パパを引っ張って行くくらい、いつも速足だった。 でも、がんばりすぎて首輪で自分の首をしめて苦しそうだった。 ゆっくり歩いたらいいのに。

ところで、パパのお散歩好きには、ある秘密の計画があった。 会社を退職した後は、会社人間をやめて「パパの新しい人生を歩むぞ!」っていうものだ。 その第一計画が、お遍路さんを歩いて巡ることだった。

ここからは、私が大人になってからのお話。

しばらくぶりに家に帰ると、パパがいない。 ママに「パパは?」と尋ねると、お遍路さんへ行ったとのこと。 朝早くリュック1つ持って自転車で出発。 さすがにママも、この日は早起きしてお見送りしたようだ。 一方パパは、自転車で出発したとたん、何故か涙が出て止まらなくなったらしい。 「何があっても歩いて巡りきるぞ!」頑固なパパは、あらためて決心。

パパは旅先から、しょっちゅうママにハガキを送った。 「何月何日どこどこを何キロ歩いて、何分休憩。 どこどこの宿に泊まって、誰々と出会って、これこれを食べた。」という具合の内容。 このハガキには「ママ元気?子供達はどうしてる?」なんて一言もない。 何の為の物かと思えば、パパがお遍路さんから帰って来てから、これは役に立った。 というのは、パパは旅から戻ってから、お遍路さんの旅行記を書くつもりだったのだ。 本を書く時に、ハガキを見ながら、日にちと場所を確認して執筆していたらしい。 

ママ宛に葉書を送っていたのは、実は自分の本の為だったパパだけど、でも優しいところもあった。 四国の道を歩きながら栗拾いをして、何度も何度もママに送ってあげていた。 でもその栗は、虫食いだらけで1つも食べられなかったらしい。 「まったくパパったら。」とママ。 でもそんな事を知らないパパは、ママへの栗のプレゼント話を、本に自慢っぽく書いている。

パパは一冊の本を書き上げた。 表紙の絵はパパだ。 お遍路さんの旅装束に笠をかぶり、杖を持って。 文句ばっかり言ってたママも、パパのいない所では、みんなにこの本を宣伝したり贈ったりしている。 そして近所の本屋さんへ行って「パパの書いた本を置いてほしい。」と頼んでいた。 「邪魔にならない見えない所でいいから」とか言ってたけど(見えなかったらダメなのに)きっとママなりに一生懸命なんだろう。

パパは60歳。1つ目の計画を果たした。

2つ目の計画につづく                                                                                                               

 

 

 

(DE3号掲載 1999年9月20日発行)