ばいおりんたちの学校

大阪市中央区谷町のバイオリン教室

いくつかの短いお話 パパの旅行記 vol.2

 パパの旅行記 vol.2

 

(1999年筆)

 

Photo_22

 私のパパは歩くのが大好き。 好きだから歩いてると、ずっと思っていたけど、それだけじゃなかった。 パパには、ある秘密の計画があって、そのために毎日毎日てくてく・・・してたのだ。 その計画とは、お遍路さんを歩いて回る事だった。

神様も仏様も嫌いなパパ。 ママは、よくお寺へ行ったりお経を読む練習をしたりしてたけど、 パパがお参りするのは、おじいちゃんのお墓だけ。 そんなパパがどうして?

実は、パパは本を読むのも大好きだった。 会社に行く前も帰ってきてからも、お休みの日も、いつもいつも本を読んでいた。 ある時、そんなパパは一冊の本と出会った。 この本が、神様も仏様もずっといなかったパパに、お遍路さんの夢をプレゼントしたのだ。

それは、パパにそっくりの『会社人間』だった人が、定年後の人生の楽しみ方をいっぱい書いた本だった。 言い出したらきかないパパは、 誰にも止められないくらい この本に共感してしまい「パパもこれをしよう!」と決めちゃった。 そして、その日から「歩くと決めたら歩くぞぉ。」と、パパの秘密の計画はスタートしたのだ。

パパは、更によく歩くようになった。 それも、定年後に焦点をぎゅっと合わせた とっても長期的・計画的なお散歩になった。 そうとは知らず、ママも私も妹も犬のブクも「パパはいくつになっても、本当に元気ねぇ。」と、いつも感心していた。

名古屋から大阪まで歩いた時は、本当に驚いたけど、今思えば、パパにとっては絶対にやり遂げなければならない関門だったのだ。 「そんなこともできないのなら、お遍路さんを独りぼっちで歩いて回るなんて絶対無理。」 そう思ったパパは、足がグチャグチャになっても我慢して一生懸命歩いた。 パパが「がんばろう」って決めた事だから、がんばってほしいなぁって思った。 でも、朝早くから一緒に山登りに連れて行かれるのは嫌だったので、パパには独りぼっちでがんばってほしかった。 きっと、ママもブクもそうだったと思う。

そんなパパは、60歳のお誕生日に、会社人間を卒業した。 会社を辞めたら元気が無くなっちゃうって よく聞くけど、うちのパパはその点は全く心配なかった。 それよりも歳を忘れてハリキリすぎる方が心配。 お陰でママも、ハラハラドキドキして 老ける暇がないはず。 私のパパは60歳、今  新しい人生の始まり。 なんか選挙のポスターのセリフみたいだ。

 

 

                                                          つづく

 

 

(DE創刊1号掲載 1999年7月26日発行)