ばいおりんたちの学校

大阪市中央区谷町のバイオリン教室

いくつかの短いお話 「まごころ」という名のオーケストラ

 「まごころ」という名のオーケストラ

 

(1999年筆)

 大阪の都島区に「まごころ」というオーケストラがある。設立は8年前、当時わずか4人でのスタートだったが、今や80人を超える楽団となった。「福祉の管弦楽団まごころ」というこの団体は、車椅子や盲導犬を連れているためにコンサートホールへ行けない人達へ、出前のコンサートを開いている。
そして今年の2月、ついに初の自主コンサートを開催するにまで至った。コンサートは3部で構成されていて、約600人もの観客を大いに楽しみ感動させてくれた。

 まず第1部、オーケストラにより2曲が披露された。その後には、おもちゃの楽器を使って観客も舞台の上で一緒に演奏するという演出。一方、客席では司会のお兄さんの指導のもと、手拍子足拍子を練習。そしてもう1度あらためて、モーツァルト(の父)作曲「おもちゃのシンフォニー」が会場全体で演奏され、第1部は終了した。

 そして第2部。目の不自由な子供達による合奏で、「となりのトトロ」や「翼をください」等が、リコーダーや太鼓を使って演奏された。子供達は何ヶ月もかけてこの日のために練習をしてきた、というだけある。きっと緊張してたに違いないが、一生懸命で心のこもったなんとも温かいものだった。
この第2部は、特に観客側の心に響きわたったようで、この子供達のガンバリを見つめ涙している姿が多く見えた。筆者もこの日は、第1バイオリンの1メンバーとして舞台側にいたわけだが、自分の演奏もそっちのけで、子供達のリコーダーや太鼓の奏でる音楽についつい意識が傾いていたようだ。

1999 そしてラスト第3部は、合唱団と手話コーラスを交えて、まごころ風アレンジの「唱歌メドレー」、年の暮れによく耳にする「ベートーベンの第9」。この「第9-歓喜のうた」も馴染みのところだけをアレンジして「まごころの第9」として演奏された。
筆者自身も過去にいくつかのアマチュアオーケストラに籍をおいたことがあるが、よくみられる傾向として、あまり一般には親しみのないもの、音楽に特にクラシックに興味の無い人は、ほとんど耳にしたことのないようなものばかりがコンサートで選曲される。演奏者側の自己満足、聴く側の優越感は満たされるであろうが、本当の意味で観客が感動するかどうかは別問題と常から思っていた。
この「まごころコンサート」は、いわゆるポピュラーとよべるもので多く構成されている。確かに子供から大人までが知っている、聴いたことある、という訳で当然、観客は足でリズムをとったり口ずさんだりということになり、コンセプト通り「観客と一緒につくるコンサート」が見事に実現する。

 ところで、このコンサートの演出をしていたのは西村氏という人物。最初どこで会ったのか分からなかったが、ある劇団の芝居を数年前よく見に行っていたころがあり、その時に出演してた役者さんだということを思い出した。コンサートの舞台が始まりシルクハット姿での登場、西村氏は司会も兼ねていたのだが、舞台に出るや否や、さっきまで普通の人(?)だったのに、いきなり「場」の雰囲気を変えてしまった。さすが役者。

 こうして日本で唯一のボランティア楽団である「まごころ」の自主コンサートは大成功の内に終わった。会場で涙する観客が少なからずいた事は付け加えておきたい。そして「まごころ」の場合、メンバーにも障害をもった人、高齢者がいるわけで、演奏者だけでなく、それを介助する介助者と、その他、多くの協力者にも拍手とねぎらいの言葉が与えられるべきだろう。次回の「まごころ」の活動にも是非注目されたし。

(DE創刊準備号マイナス3号 1999年4月1日発行)